人生のスタンプラリー

人生のスタンプラリー認定協会埼玉支部

part time love affair

ポルノ新曲のカップリングが自分の中の爆心すぎたので自分を殺さないために文を書きました。まだ聞いてない人はやめておいてね。推敲すらする体力ないからできがひどくても誤字があっても叱らないでね。しんどい。なんて曲だ。新藤め。

 

 

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パートタイム・ラブアフェア

 

 

きらり、と彼女の左手で指輪が光る。薬指だ。控えめな、それでもしっかりとしたつくりのダイヤモンドの指輪は、美しく笑うあなたにとてもよく似合っていた。
「弟だとしか思えないわ」
そしてその美しい微笑みは、僕に残酷な現実を突きつける。
「なら、弟でいい」
他の選択肢はなかった。賭けだ。
「弟としてでいい、僕と、僕と」
その微笑みはすこし困ったように変化し、そしてほどけるような苦笑に変わった。僕はその変化に見惚れてしまわないように、必死にひたむきにまなざしを送り続ける。

弟になりたいわけじゃない。でも、縁を切られるよりは、マシだ。せめて僕をあなたの浮気相手にして。賭けた。
「…指切りしましょう」
「え?」
「弟として、でいいのなら」
それをあなたが誓えるのなら。
それは賭けに負けた僕への最後通告だった。

僕はその場でそれを拒むこともできた。発言を撤回して、弟、じゃなくて、あなたの恋愛対象に僕をしてよ、とごねることも、できたはずだった。
きらりと光る指輪が憎い。出会ったときにはしていなかった指輪、自分の気持ちに気づいたときにはもう手遅れだったその指輪が、憎い。…あなたのパートナーが、憎い。
その最後通告に、僕は小指をゆっくりと突き出した。奪えない薬指のその隣、無力な小指。
そうして、僕とあなたの「浮気未満」な関係が始まったのだ。

甘いデート、ときには手を繋ぐデート。楽しく映画を見て、感想を語り合いながらディナーをしたり、ショッピングをしたり。はたから見ればきっと恋人に見えるはずだ。でもたとえば食事代を全額出そうとすると「弟のくせに」と小突かれる。一度もカッコつけさせてもらえない。
僕は。僕はあなたの弟になりたかったんじゃないはずなのに。どうして。やさしく、ちょっと仲が良すぎる姉弟なんかになってしまったのか。僕が初日に交わした契約を、あなたの指輪越しに睨む。あなたは気づかないふりをする。
スパークリングワインではなく、スパークリングウォーターで食事を終える。恋人同士の解散にはいくらか早すぎる時間だ。これからあいつとワインを楽しむ彼女を、僕はドライバーとしてノンアルコールで送り届けなければならない。弟として。
彼女の小指以外に触れたことはない。僕らの関係は浮気ですらないのだ。浮気の、ほんのうわべのほうをなぞりながら、姉弟と呼び合う。僕にとっては嘘の呼び名、彼女にとってはどうなのかはわからない関係性。それだけだ。
車のドアにあなたが手をかけた。
(帰したくない)
心の底からそう思う。けれど選択肢はない。彼女の…姉の最寄り駅まで、僕は車を走らせる。

「あなたはわたしの弟ではないでしょう」

その一言を、ただ望んでいる。それが、僕らがようやく浮気に発展できるものだとしても、たとえ関係の終わりを告げるものだとしても、それでもいい。僕には言えない言葉が、あなたからほしい。このパートタイムの浮気ごっこ、兄弟ごっこを、終わらせられるのなら、それでいい。
どうして僕じゃダメなの、どうしてもっと早く出会えなかったの、どうしてせめてきっちり浮気をしてくれないの、どうして弟だなんて言ってしまったの。消えていく疑問符。自分からは決して仕掛けることのできない終止符。

「またね」

車から降りたあなたを追いかけられたら。取り出した携帯電話を唇ごと奪ってしまえたら。せめてあなたにとって僕が弟でなくなれば。
フロントガラスに叩きつける雨粒と一緒に、僕のため息がなんの猶予もなく地面へ落ちて死んでいった。「弟でいい」と望んだはずのつながりすら、絡まるほどにほどけていく。