人生のスタンプラリー

人生のスタンプラリー認定協会埼玉支部

創作SS/ワールドイズ


しおりは想い出の降る丘がある世界で、その想い出を拾い売っています。自分を客観視することを好み、自虐することをやめられません。心についた傷は虹色に光る流星によって癒されます。 #君と世界 shindanmaker.com/467376

という診断メーカーからインスパイアされて書いた創作。1年半くらい前のだったのでてにをはとかちょっとだけ直しました。お手柔らかにお願いします(スライディング土下座)
オープンスペースに創作文章を載せることに慣れようキャンペーン。しばらく昔のとか書きかけのとか載せてみようと思います。誰かひとりでも読んで何か感想を抱いてもらえれば嬉しい。です。

 


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「君と世界 僕と世界」


目が覚めると、まったく見覚えのない場所にいた。自分が先ほどまで何をしていたのかもよく覚えていない。いやに澄んだ空がよく見える。
こんな景色、近所にあったっけ…。
考えようとしたら、頭が鈍く痛んだ。これは一体なんだ。鈍いままの頭では見当もつかない。
「……誰かにここがどこか聞かないと」

 

重たい足を引きずりながら林のようなものを抜けると、丘のような場所に着く。いまいち確信が持てないのは、すべてのものの輪郭がすこし曖昧に見えるからだ。
すると、その丘にはらりとなにかが降ってきた。雪に見えたが、雪にしてはあたたかい。ホタルだろうか?しかしホタルにしては光が白すぎる。不思議な白い光のようなものが、ふわふわと降り注いでいる。
「なんだ、これ」
体の前に手を差し出すと、その白い光のようなものが掌に着地した。触れた瞬間、ぼんやりと輝きが弱くなっていく。すると、ある程度の光になった瞬間にぱちん、と弾けた。弾けたその光のようなものから、なにやら音が聞こえる。
「…雨の音…?」
ざー、と降る雨の音。キィ、と軋む自転車を押す音も聞こえる。それから、男の子の声が聞こえる。『…あのさ』恐る恐る発せられたような声に聞こえる。女の子の声が続く。『うん』『俺さ』『うん』『お前のことが』
なんだか、聞いてはいけないものを聞いているような気がして、掌のそれをふっと吹いて飛ばした。光のようなものはふわふわとすこし風に踊り、それから地面へと落ちた。はらり。
「おにーさん、なにしてるの?」
後ろからの声に驚く。振り向くと、少年のような人が立っていた。手には目の粗いカゴをもっていて、そのカゴの中には光のようなものがいくつか乗っている。
「あ、あんたは…」
「僕?僕はここで思い出拾ってる。おにーさんは、えーっと…、もしかしてこのへんの人じゃないかんじ?」
「…あんたの言うこのへんと、おれの思うこのへんが一致しているとすれば、たぶんそうだ」
「迷子さんか。久しぶりに見たなぁ」
おれが迷子?と問おうとしたが、目の前の人はニコリと笑ってそれをかわした。一見すると少年のようだが、笑うと少女のようにも見える。
「そのことはそのうちわかるよ。それより、おにーさんいま持ってた思い出捨てちゃったの?」
「思い出、…ってなんのことだ?」
「これだよ」
少年(と、便宜上呼ぶことにする)は手にしたカゴを指差した。これが思い出だよ、とそのうちのひとつを手にとり見せてくる。白く柔らかく光るそれは、いままで見たことがないものだった。
「さっきのその白いのからは…なんか音が聞こえた、雨の音と、人の声…男の子と女の子、告白みたいな話をしてた」
「告白の瞬間かぁ…、売れそうな思い出だなぁ」
「売れそうな?」
「うん。ここで思い出拾って、それを売るのが僕のお仕事」
少年は微笑み、そして続けた。
「これには、音とかにおいとか、思い出のカケラが詰まってるの。みんな、他人の思い出が好きなんだよ。面白がって悪い思い出を見たり、羨ましがってきれいな思い出を見たり、自分とはかけはなれた思い出をエンタメ代わりに見たりさ」
思い出を拾って売る?そもそも、思い出が降ってくるとは、どういうことだろう。
「そのうちわかるよ、そのへんのことは」
少年はおれの考えを見透かしたように言った。「とりあえずいまは僕とお話しよう」と言われ、その断言するような声色につられて頷いた。それしか選択肢がない。
「それで、いまちょいちょい降ってきてるあの白いのは、思い出、なんだな?」
「そうだよ」
「誰の?」
「さぁ…、おにーさんたちの世界の、誰かの」
少年はまたニコリと笑った。
「ここで待っていれば、いつか自分の思い出に出会えるかもしれない」
「自分の思い出?」
「そう。そういう場所なんだよ、ここは。思い出の降る丘なんだ」
それから少年は降ってきた白い光のようなものに手を伸ばした。数歩すすんでそれを手に取り、弾ける直前にカゴにいれた。
「おにーさんのも降ってくるかも」
「おれの…」
おれの思い出、とはなんだろう。ぼんやりと、頭の記憶の輪郭をなぞってみた。やはり、この丘の近くで目覚めてから頭の働きが鈍っている。ものはなんだかぼやけて見えるし、必要なことをうまく思い出せないのだ。ただ、いやにまぶしい記憶がひとつある。目が痛くなるような、眩しい影が脳裏にかすんで見える。
「…おにーさんのはまだ思い出になってないんだね?現在進行形なんだ。羨ましい」
現在進行形?そういうことなんだろうか。何も思い出せないおれは曖昧に頷いて、「あんたのは」と尋ねた。
「…思い出と、呼んであげられたらいいんだけど」
どういうことかと尋ねようとしたが、少年の声に遮られた。
「ボク、ある香りを探しているんだ」
「香り?」
「そう。ボクの記憶の中にあるはずの香りの思い出がね…、どこかにいってしまったの」
少年はまたもニコリと笑ったけれど、その笑いかたはさっきよりも切なく見えた。その切なさが、なんとなく痛々しい。
「…一緒に、探してやろうか?」
そう言うと、少年は首を振った。
「だいじょうぶ。ありがとう。時間だけはたくさんあるし、自分で見つけたいんだ」
「そうか…」
「ねぇ、おにーさん」
少年はちょっとマジメな顔をしている。そして言った。
「たしかに、思い出はたいてい美しいものだよ。でもね、むりに過去にしてしまう必要はない。むりに思い出へ落とし込んでしまう必要はないんじゃないかな」
思い出を過去に落とし込む…、わかるようで、わからない。だから無言のまま続きを待った。
「過去はとても美しいんだよ、実際のところ。ただその美しさを…あの特別なきらめきを、忘れられないということに問題があるんだ。むりやり過去として終わらせようとしてしまうと、だいたいうまくいかなくなる。必要以上に美しい過去は、その人を苦しめるだけなんだ。…僕もそうなんだけど。情けないでしょ?」
するすると紡がれることばは色を持ち、景色を持ち、意味を持っている。それはわかる。けれど、やっぱり輪郭が曖昧だ。わかるようで、わからない。
少年は続ける。
「しかも、かなわないから美しいんだって。だったら美しさなんて、いらないのにね」
「…言っている意味が、わかるようでわからないんだけど」
「目が覚めたらきっとわかるよ」
目が覚めたら?どういうことだろう。
「大事にして。現在進行形のものごとを、大事にしてあげて。過去にするのは…思い出にするのは、実は簡単なことなんだ。現在進行形が簡単に見えるけど、実はそうじゃない。覚えておいて」
少年の切実な瞳に押されて、ひとまずこくりと頷く。ああ、わかったよ。そう声に出すと少年は笑った。こんどはしっかりと笑った。
「おにーさん、たぶん、あなたはここじゃなくて、あっちに用があるんじゃないかな」
少年は言う。先ほどまでとうってかわって、カラリとした爽やかな声だった。すこし高めの少年、すこし低めの少女。
「あっち?」
「そう、あっち。丘の向こう。たぶん目が覚めるためのヒントがあるはず」
「それって、一体」
「行けばわかるよ」
さぁ、と促されるように道を示され、歩き始める。振り向くと少年がニコニコと手を振っている。自分の頭の中はまだもやがかっている。目が覚めたらわかること?目が覚めたら、ということは、ここはどこなのだろう。…夢の中、なのか?
しかしいまは歩く以外に選択肢がない。重たいわりにふしぎと疲れない体を押し出しながら、丘を超えるべくまっすぐに進んだ。

 

 


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続きません。
創作の文章って載せるの恥ずかしいよね、なんか照れがある。むかしはなかったのに。なんでだ。